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怪文書置き場

小説

STBTYR 1-1

1. ライフル弾のいくつかが目標を逸れてシーナ=トーネルへと襲いかかり、彼女のすぐ近くで甲高い音とともに弾き返された。彼女の身に付けたブレスレットに施された反応性防壁(リアクティブシールド)の呪文が発動し、彼女を弾丸から守ったのだ。シーナは防壁…

STBTYR 1-2

2. 若い姿の両親が、子供の頃の、知恵も力もない頃のシーナを見下ろしていた。「正直に、誇りを持って生きなさい」「本家の連中はルノ族の誇りを捨て、自分を偽って生きているの」「お前はそうなってはダメだよ」 家の食卓で、暖炉の前で、小さな庭で、近所…

STBTYR 1-3

3. 「では、彼女の独唱を皆さんに聴いてもらうことにしましょう。彼女がリーダーに相応しいことは、すぐに分かっていただけるかと思います」 シーナの唐突な提案に、そのリーダー——十二歳ほどの少女だ——が戸惑っていた。何十人もの大人たちに囲まれて縮こま…

STBTYR 1-4

4. 十年前、シーナが十六歳のころだった。シーナは、カンダート伯爵が自分と歳の近い子供を養子にした、と聞かされ、伯爵の城に連れてこられた。 通された広間には、等身大の人形が何体も並べてられていた。どれも十代――シーナと、そしてこれから現れるだろ…

STBTYR 1-5

5. 礼拝技術部がカリンの次の指令を全面的にバックアップすると決まったことで、シーナの追加人員の要請はかつてないあっけなさで承認された。おかげでこの一週間でシーナの組んだ実験プランは予定より大幅に前倒しになった。マンパワーの集中投入により、真…

STBTYR 2-1

1. ルドノア共和国にとってこの十年ほどは、植民地時代の統治戦略に端を発する民族紛争と多国籍軍の強引な軍事介入が終わり、実質的な占領状態から民主化プログラムの実施を経てようやく訪れた、平和な時間だった。しかし『ルドノアの子どもたち』による伯爵…

JNコンフィデンシャル 1/14

第一章 Slit Your Guts 1[小立 俊弘] 水が口から鼻から入ってくる。息ができない。顔を上げられない。生暖かい手に首の後ろを押さえつけられ、おれはバスタブの冷たい水の中でもがいていた。 水の中から引っ張り出され、咳きこみながらやめてくれ、といいか…

JNコンフィデンシャル 2/14

2 [小立 俊弘] 「はい?」 暢気な声とともに小綺麗なマンションの一室の扉が開いた。その瞬間、花山がおれの背中から飛び出してその男へブラックジャック――花山がおれを襲ったときにも使った武器で、二重にした靴下にナットをぎっしり詰めている――を振り下…

JNコンフィデンシャル 3/14

3 [泉 哲朗] 「たれこみがあった」 咳きこみながら答える――胸/背中に鈍痛。 二人の襲撃者=顔を晒していたもやし野郎/最初から目出し帽だった背の低い男。完全に不意を突かれた。身体=椅子に縛られている/手=後ろ手に縛られている――一切抵抗できない。…

JNコンフィデンシャル 4/14

4 [橘 創] 退屈な会議。不毛な会議。無益な――。 スーツ姿の人間が議論している。プロデューサーどもが議論している。スクリーンに色鮮やかな文字が、図が踊る。プロモーションのテーマ。コンセプト。スケジュール。ターゲット。シナリオ。 新しい方策が必要…

JNコンフィデンシャル 5/14

5[小立 俊弘] 泉の襲撃から数日後。おれ、花山、泉はまた泉のマンションに集合した。呼び出した花山は、今後の作戦会議だと言った。 「犯人像はあるのか?」 泉が聞いた。 「そうだな。まず言えるのは、そいつはオービットのファンでもアンチでもないだろう…

JNコンフィデンシャル 6/14

6 [泉 哲朗] 花山からの情報=被疑者:男/二十~三十代/身長は百七十前後/中肉中背。そいつが目の前の雑居ビルからおれに接触した。おそらくは、店子の芸能事務所・中村プロダクション関係者。建物の前で張り込み、被疑者が出てきたら尾行して特定する。…

JNコンフィデンシャル 7/14

7 [泉 哲朗] 張り込みから五時間半が経過――二十三時十五分。事務所内の動き/変化=いっさいなし。立ちっぱなしで足が痛む。欠伸が止まらない――浮かんだ涙をぬぐって事務所の窓に目を向けた瞬間、心臓が止まった――電気が消えている――やつがでてくる。ビルの…

JNコンフィデンシャル 8/14

8[橘 創] 朝から事務所は騒然としている――うすら馬鹿どもをかきわけ、高木を探してデスクへ――高木は誰かと話している。 警告音が鳴り響く。ここは危険だ。長居できない。早くここを離れろ。 二十代半ばくらいの男――顔は見えない――かすかに見覚え――話し声が…

JNコンフィデンシャル 9/14

9 [小立 俊弘] 花山が死んだ。 おれはニュースを読んで、すぐに泉に連絡した。できるだけ早く会いたい。念のため、泉の家から離れたところで落ち合うことにした。 「花山が死んだ」 泉が来るなり単刀直入に切り出した。自分の声が震えていた。泉の反応も待…

JNコンフィデンシャル 10/14

第二章 NOIRISH x HATE x WORLD 10[泉 哲朗] 帰宅/リビングに入る。灯りをつけようと、暗闇の中壁に手を伸ばし――瞬間、部屋の灯りが点いた。不意打ち――パニックに陥る/掌で光を遮る/手を振り回す。 「元気にしていたか」 含み笑いを隠さずに拝島が言っ…

JNコンフィデンシャル 11/14

11[橘 創] 事務所は騒然としている――うすら馬鹿の奥で、また高木が拝島と話していた。 「ああ、元はイチエフで高線量作業員をやってた――津波で死んだ人間の戸籍を使い回して――それがピンハネしてたヤクザを刺して逃げ出してきたのを見つけた――話を聞いて身…

JNコンフィデンシャル 12/14

12[泉 哲朗] 小立を呼び出した。なんてことのないファミレス。大仕事の前に腹ごしらえをしたかった。 「こいつを見てくれ」 席につくなり布施からもらったファイルを押しつけた。小立が中身に目を通す/みるみる顔色を変える。それを眺めながらオーダーす…

JNコンフィデンシャル 13/14

13[小立 俊弘] 泉も死んだ。たぶん、犯人を道連れにして。おれにはなにも言わずに。 一週間経ったが、おれは部屋から出る気力もなかった。大学にも行ってない。 花山の苛烈な言葉を思い出す。『例えば今お前が留年してても、大学に落ちていても、何百万も…

JNコンフィデンシャル 14/14

14 [小立 俊弘] おれのスペース:声優島の端。一般参加者はまばらだ――目の前の同人誌が手に取られたのは数回だった。おれの同人誌――事件に関するおれの告白。おれの懺悔。おれの――おれたちの妄動。白黒/五十ページ。血を吐くように書いた/叩きつけた/自…