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怪文書置き場

JNコンフィデンシャル 8/14

8[橘 創]

 朝から事務所は騒然としている――うすら馬鹿どもをかきわけ、高木を探してデスクへ――高木は誰かと話している。

 警告音が鳴り響く。ここは危険だ。長居できない。早くここを離れろ。

 二十代半ばくらいの男――顔は見えない――かすかに見覚え――話し声が聞こえる。

「うちの調査員じゃない――雇用関係はない――ただあいつ自身は『プロデューサー』の仕事をしているつもりらしい――「プロデュース活動の一環」で汚れ仕事の専門家がいると言って――それでフリーランスを一人紹介した――尾行、覗き、盗撮なんでもやる――代わりはいる、惜しくもない人間だ――ああ、「死んでもいい人間」だ――」

 会話の内容は分からない。私はその場を離れようと――立ち去ろうとした瞬間、高木がこちらに気付いた。

「昨日、怪しい男が事務所のまわりをうろついていたようだ。こちらの方から情報を頂いた」

 男が振り向く――

 子供が子供を襲う――笑いながらつつき回し、引き倒し、殴り、蹴る。

「こちら、拝島怜司氏だ」

 虐げられたものは視界にも入らない――虐げる側だけを見つめる――

 男が笑う。

「あなたのお父さんは立派な人よ」

 高木が笑う。

 子供が子供を襲う――笑いながらつつき回し、引き倒し、殴り、蹴る。

「拝島氏にその男を呼び出してもらう。今夜、ここの公園だ。駅から来るなら、この地下道を通るだろう」

 高木社長が地図を指差した。

 警告音が鳴り響く。ここは危険だ。長居できない。早くここを離れろ。

 

 駅からの上り坂を小柄な男が登ってくる――時間通り、あの男が渡した写真通り。男を尾行する――

 居場所はない。ここは安全でない。

 こちらに気付いている様子はない――

「あなたのお父さんは立派な人よ」

 男が山手線の下を通るうす暗い道へ入っていく――

「あなたはお父さんの息子よ。お父さんの血を引いているのよ」

 誰も見ていない――

 ナイフを抜き、走り出した。足音に気付いて男が振り返る――もう遅い。身体ごと体当たりする。ナイフが深々と男に刺さった。

 居場所はない。ここは安全でない。

 刺さったナイフを思い切りこじる。血が吹き出て私を濡らす。男はくぐもった声を上げる。見開いた目の生気が抜けていく。

「あなたのお父さんは立派な人よ」

 そのままアスファルトに押し倒した。

「あなたはお父さんの息子よ。お父さんの血を引いているのよ」

 ナイフを引き抜く。かすかに男の呼吸音が聞こえる。もう一度刺した。深々と刺し、引き抜く。もう一度刺し、引き抜く。

 高木が哄笑する。あの男が哄笑する。

 夢中になって刺しまくった。二十回か三十回か――

 子供が子供を襲う――笑いながらつつき回し、引き倒し、殴り、蹴る。

 男はぴくりとも動かない。

 警告音が鳴り響く。ここは危険だ。長居できない。早くここを離れろ。

 私はその場を去った。

 

読経ニュース 十一月十七日

十七日午前五時二十分ごろ、神奈川県横浜市の横浜港で、「男性の遺体が浮いている」と通報があった。神奈川県警によると、男性は二十歳前後、身長約百五十五センチで腹部に複数の刺し傷があり、殺人・死体遺棄事件と見て捜査している。

経ニュース 十一月十八日

神奈川県横浜市の横浜港で男性の遺体が見つかった事件で、県警は十八日、遺体を東京都に住む大学生の花山昌志さん(二十一)と確認した。事件は殺人・死体遺棄事件として捜査が進められている。