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怪文書置き場

JNコンフィデンシャル 9/14

9 [小立 俊弘]

 花山が死んだ。

 おれはニュースを読んで、すぐに泉に連絡した。できるだけ早く会いたい。念のため、泉の家から離れたところで落ち合うことにした。

「花山が死んだ」

 泉が来るなり単刀直入に切り出した。自分の声が震えていた。泉の反応も待たずに続ける。

「殺されたんだ。しかも、どう考えてもヤクザとかマフィアとか、そういうやばいの絡みだ。この事件、なにか裏があるんじゃないか。おれたちもやばいんじゃないか」

 おれは自分の言葉に急かされるようにたたみかけていた。押さえ込んでいた不安と恐怖を表に出した瞬間、そいつらがおれを押さえ込んで支配した。

「落ち着け。一人で一般市民の住居を襲って拷問にかけるようなやつだぞ。おれたちの知らないところで今までどんな恨みを買っていたか。おれたちは関係ないさ」

 泉の声も冷静を装う裏から恐怖がしみ出していた。

「あいつのことだ。『お前怪しいぞ、なんかスキャンダルに関係あるんだろ』って街中でヤクザに突っかかっていったんじゃないか」

 どこか自分に言い聞かせているように聞こえた。

「ヤクザだってそんな簡単に人を殺すわけないだろ。誰か、あいつを殺すだけの理由があったんだ」

「それなら容疑者は分かってるじゃないか。おれ。お前。あいつの妄想で酷い目にあってる。動機は十分だ」

「おれはやってない! お前がやったのか!? そんなわけないだろ!」

「あいつは暴力を選んだ! 昨日死ななくても、遠からずそれ以上の暴力にぶち殺されてたさ!」

 周りの通行人が怒鳴り合うおれたちを見ないようにして足早に通り過ぎていた。

「とにかく、そんなに恐いなら家でじっとしてるんだな。家の中ならヤクザにも見つからないだろうよ」

 そう言い捨てて泉は立ち去ろうとした。おれはその背中に問いかけた。

「なあ、正しいのはあいつだったんじゃないのか?」

 だが死んだ。誰とも知れないやつに、むごたらしく殺された。

「なんであいつは死んだんだ?」

 力に訴えたから。力の強さで己の正しさを問うたから。

「誰かがやるべきなんじゃないか。彼女たちのことを思うなら」

 花山はやるべきことに向き合っていた。

「だったら、それはおれたちじゃないか。おれたちがやらなきゃいけないんじゃないか」

 泉の姿が見えなくなった。

 それでもおれは、泉にかける言葉を探して立ち尽くした。