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怪文書置き場

JNコンフィデンシャル 6/14

6 [泉 哲朗]

 花山からの情報=被疑者:男/二十~三十代/身長は百七十前後/中肉中背。そいつが目の前の雑居ビルからおれに接触した。おそらくは、店子の芸能事務所・中村プロダクション関係者。建物の前で張り込み、被疑者が出てきたら尾行して特定する。花山の指示=三人で張り込み――おれ/小立/花山。おれと小立:事務所の左右に分かれて張り込む/同時に二人まで追跡可。花山:離れたマンションの上階から全体を監視/小立とおれに指示する。裏口はノーマーク――使用頻度は低い――動きがあれば花山が指示を出す。

 事務所は渋谷の繁華街を少し外れたあたり、煉瓦造りの雑居ビルにあった。五時から張り込み開始、四時間強が経過。この間、出入りは若い娘が三人と宅配業者が二件=全員はずれ。

 特徴の一致する人間はまだ一人も出てこなかった。八時頃からは出ていく人間ばかりで、入っていく人間はいなかった。九時を過ぎるといくつか部屋の電気が消えた。情報が正しければ、恐らくもう標的の男しか事務所にいないだろう。と、また一部屋電気が消え、誰か出てきた――三十そこらの事務員然とした女=はずれ。やつは終電帰りか、もっと遅いか――。

 退屈で思考が拡散する。小立の顔が浮かぶ。「これ、やるよ」張り込みを始める直前、小立はそういってチケットを差し出した。夏頃の――だいぶ先だ――オービットのツアー。仲間内でチケットが余ってね、せっかくの機会だし、あんたたちもどうかな、ってね。小立はそう言い訳がましく続けたが、花山もおれも呆れて無視した。当然だ。おれとあいつの関係で誘いを受ける理由はない。

 欠伸を噛み殺す。足下には缶コーヒーの空き缶がいくつも転がっている。標的が見つかるまであと何本増えることか。煙草でも覚えてればこういうときに吸うんだが――そういえば拝島が吸っていたのはどんなやつだったか。そのとき、事務所の裏手の暗がりにちらりと動くものがあった。赤い/またたく――煙草。花山にコールする――1コール以内に接続――「建物の裏側、誰かいるぞ。煙草吸ってないか?」「見えてる。そいつは関係ない。それより事務所に動きはないのか」

 舌打ちして切る――くそったれ。早く出てこい。早くおれを解放しろ。そうしたら、すぐにおれたちのキチガイがお前を絞り上げてやるから。