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怪文書置き場

JNコンフィデンシャル 4/14

4 [橘 創]

 退屈な会議。不毛な会議。無益な――。

 スーツ姿の人間が議論している。プロデューサーどもが議論している。スクリーンに色鮮やかな文字が、図が踊る。プロモーションのテーマ。コンセプト。スケジュール。ターゲット。シナリオ。

 新しい方策が必要だ。新しいキャンペーンが必要だ。新しいイベントが、新しいアイドルが――

 ホワイトボードに写真。証拠。証言。事実を集め、証言を集め――

 くだらない。会議は無意味だ。意見は無意味だ。論理は無意味だ。マーケティングは無意味だ。

 高木社長の姿を探す。いつの間にかいなくなっていた。

 居場所はない。ここは安全でない――

「おい、いくぞ」

 私は隣のあずさに声をかけて席を立った。あずさを連れてそろそろと会議室から出る。 視線が向けられる。私に。私と連れに。腫れ物に。狂人に。

「会議、いいんですか?」

「時間の無駄だ。売り上げが伸びないのはプロデューサーの力量の問題だ。個人の能力の問題だ。会議しても意味がない」

 あずさの問いかけにうんざりして答える。

「ターゲット? シナリオ? くだらない。人間の主観を集めて撚り上げてなにか一つの『ファン』なる人格をでっち上げてなにになる? 不完全な感覚をいくら集めたところで、出来上がるのはきまぐれで横暴な、錯乱した人格だ。泥で偶像でも作る方がマシだ」

 あずさが私の話にはもう興味をなくして、廊下のあちこちを見回している。私はそれにかまわず続けた。

「だが、私たちはその狂人に媚びを売って機嫌を取らなければ生きていけないんだ。狂人の奴隷なんだよ、私たちは。あいつらにはそれが分かってない」

 高木がいた。高木泰司。私を拾った恩人。私を救った恩人。私を――

「会議は終わったか」

 あずさが高木にすり寄る。高木はかがんであずさの顎を撫でた。

「馬鹿につきあっても時間の無駄です」

「そうだろうな。お前は好きにしていい」

 寛大な言葉と冷徹な視線。お前を、お前の全てを知っているぞという視線。

 高木泰司。私を拾った恩人。私を救った――

「じゃあ、もっと若い娘を回してもらえませんか?」

 あずさは高木に撫でられるまま――高木の手が首筋へ、胸元へ――

「あなたのお父さんは立派な人よ」

「若い娘が歌う、踊る、笑う、泣く、苦しむ。結局これです。これが見せ物になる。男とか年増じゃだめです」

 あずさが恍惚の表情を浮かべる。

「あなたはお父さんの息子よ。お父さんの血を引いているのよ」

「私にやらせてください。一年でファン三百万、ドームコンサートまで持っていきますよ」

「考えておこう」

 気のない返事――くそ。

 あの女を貶めろ――

「いくぞ」

 あの女の口をふさげ。引き倒せ。闇に葬れ。

 あずさに声をかけ、立ち去る。あずさが高木の元を離れ、おれの元に寄ってきた。